2005/09/27, 日経産業新聞, 4ページ
インド最大の商都ムンバイの中心部。こんもり木々が茂り、市街地の騒ぎが届かない空間がある。公園でも博物館でもない。有力財閥、タタグループの情報技術(IT)最大手、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)のオフィスの一つで、IT技術者が集まる重要拠点だ。
「グッ、イブニング」。まだお昼なのに、パソコン画面をにらむオペレーターは晩のあいさつをかわす。それもそのはず。電話の向こうは米国で、インドとは昼と夜が逆。米企業が夜間の顧客サービスをTCSに委託し、二十四時間対応できるようにした。
業務内容ごとに区切られたオフィスを入ると、約四十人が米国と結ばれた専用回線で車を手配する。米大手レンタカー会社のエイビスからの業務受託で、配車シ
ステムの運用、メンテナンス、機能追加などを受け持つ。隣では欧州大手銀行のシステムを開発している。秘密保持のため役割が明確に分かれ、異なる担当者が
会話をかわすことはない。なぜ、インドでなければならないのか。
「ITの専門集団にまかせた方が、より良いサービスが提供できる」。主席コンサルタントのスリニバサン・ハリハラン氏は説明する。顧客の要望に応じて最適なシステムを構築する業務であり、コスト削減だけの下請けではないと強調する。
輸出を含めたインドのIT産業の売り上げは〇四年度に前年度比三一・七%増の二百二十億ドル(約二兆四千億円)と急速な成長を続ける。最大手のTCSは一
九六八年設立で、〇五年三月期の売上高は前期比三六・五%増の九百七十二億七千万ルピー(一ルピー=約二・五円)、純利益は同三七・八%増の二百二十五億
ルピーに伸びた。従業員は四万四千人で過去一年だけで一万人も増えた。
そのTCSが日本に事務所を設けたのは一九九二年。ようやく新生銀行や東芝などとの取引も出始めて、〇四年に株式会社となった。欧米に比べて取引が少なかった日本企業も、開発スピード、運用コストを無視できず、インド企業に任そうという動きが芽生えている。
南部のIT都市バンガロール。横河電機、ファナックなど日本企業が集まる「エレクトロニック・シティー」と呼ばれる地域で、インドIT第二位のインフォシス・テクノロジーズの本社はひときわ目立つ。「キャンパス」と呼ばれる大学をイメージさせる敷地は約三十万平方メートル。技術者がゆったり働ける環境だ。
欧州航空大手エアバスが今春に初飛行に成功した五百五十五座席の超大型旅客機「A380」の開発では、ウイングの一部を設計した。M・R・ラヴィシャンカー副社長は「航空機で最も重要となる軽量化を実現して提供した」と胸を張る。
日本の自動車メーカーも「キャンパス」に足を運ぶ。目的はシートや内装関連の設計作業。世界でいち早く製品を投入するため、部品設計の外部委託が進む。インフォシスは「一般的にコストを二五―三〇%削減、開発期間を三〇―五〇%短縮できる」と効果を強調する。
インフォシスもTCSと同様、アジアを重視し始めた。一九九七年に東京オフィスを開設し、約百五十人が日本で働いている。日本向け事業の経験者は六百人以上だ。
日本企業の担当者はインドから研修を兼ねて来日すると、言葉だけではなく、日本の文化を含めて勉強する。社員の一人は「最初は居酒屋での飲み会に戸惑ったけど接待も大丈夫だよ」と、覚えたての日本語を披露。硬軟とりまぜて少しずつ日本にとけ込んできた。
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